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厚生労働科学研究費補助金(効果的医療技術の確立推進臨床研究事業)
「脳血管疾患の再発に対する高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害薬の
予防効果に関する研究」
主任研究者名:松本昌泰(広島大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学)



東儀英夫   (岩手医科大学医学部神経内科学)
北 徹   (京都大学大学院医学研究科循環器内科学)
内山真一郎   (東京女子医科大学医学部附属脳神経センター神経内科)
峰松一夫   (国立循環器病センター内科脳血管部門)
井林雪郎   (九州大学大学院医学研究院病態機能内科学)
高木 誠   (東京都済生会中央病院神経内科)
北川一夫   (大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学)



 本研究は、平均的な血清コレステロール値を有する虚血性脳卒中の既往のある被験者を対象として、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の脳卒中の再発防止、痴呆発生の抑制、日常生活能力障害の進行の予防や、動脈硬化の進展の抑制に対する有効性と安全性を、多施設共同ランダム化比較試験を組織して、評価することを目的とする。



 わが国における質の高いエビデンスを確立する目的で、多施設共同ランダム化比較試験を実施するための具体的な症例選択基準、症例登録とランダム化の方法、試験デザイン、評価項目、目標症例数の決定、統計解析手法などについて活発な討論を行い、試験プロトコールの策定を行なった。研究組織は、わが国において脳卒中、循環器疾患および高脂血症に関する豊富な臨床経験と研究成果 を有している研究者に参加を要請し、国際標準を踏まえた組織編成の編成を行った。研究協力施設として、脳卒中診療の主要拠点施設約200施設を選択して、本臨床研究への参加の要請を行った。本臨床試験は症例登録やデータ入力の効率化と正確性を確保する目的で、インターネットを活用することとし、そのための大規模臨床試験実施システムの構築を行なった。また、わが国における血清コレステロール値と脳卒中の発症や再発との関連を明らかにする予備調査研究のプロトコールの策定を行った。



 国際的に通用する試験プロトコールとするために、峰松分担研究者、横田研究協力者が作成した第一次プロトコール案をもとに更なる討議を重ね、以下のようなプロトコールを策定した。本試験はJapan Statin Treatment Against Recurrent Stroke (J-STARS) 研究と呼称する。試験対象者は発症後1ヶ月以降3年以内のアテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞とし、血清総コレステロール値が180mg/dl以上で240mg/dl以下、年齢が60歳以上80歳以下とした。試験デザインは、スタチン投与群はプラバスタチンあるいはアトルバスタチンのいずれかを投与し、対照群はスタチン非投与群とし、ランダム化比較試験を実施する。試験開始後2年間の症例登録を行い、平均5年間の追跡調査を行う。折笠研究協力者らは目標症例数の設定を検討し、スタチン投与群としてプラバスタチン群750例とアトルバスタチン群750例、対照群として1,500例の合計3,000例とした。一次評価項目は脳卒中再発で、二次評価項目は、主要な血管性事故、痴呆ならびに認知機能障害、日常生活動作の低下または要介護である。峰松分担研究者、横田研究協力者は虚血性脳卒中例での再発率は脳卒中発症後とくに1カ月以内が多く、その後の再発率は大きな変化がないことを明らかにした。この結果 をもとに、症例選択基準の脳卒中発症後の期間の設定を行なった。北分担研究者は、スタチンの投与を受けた高脂血症患者を対象とする大規模コホート研究の結果 から、総コレステロール値が280mg/dl以上の高度の高コレステロール血症を呈する群を除くと280mg/dl未満の群では、血中コレステロール値別 の脳血管障害の死亡率には差を認めなかった。このことから、軽症の高コレステロール血症は、重篤な脳血管障害のリスクをさほど増加させない可能性が示された。井林分担研究者は、約8,000例の脳卒中急性期患者データベースの構築に関する研究(主任研究者:小林祥泰)の成績をもとに解析を行い、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞では高血圧、糖尿病、高脂血症の合併が多く、高脂血症の合併頻度は両者ともに25%程度であることを明らかにした。高木分担研究者は、急性ラクナ梗塞70例を画像所見により穿通 枝近位部閉塞型(P型)25例と遠位部閉塞型(D型)45例に分類すると、D型は高血圧性血管病変を基盤とするラクナ梗塞、P型は高脂血症、糖尿病を基盤としたアテローム硬化性血管病変によるラクナ梗塞であることが示唆され、ラクナ梗塞の中にもアテローム血栓性梗塞と同様の背景因子を持つ症例が少なくないことが明らかにした。これらの結果 を基に、本臨床研究の症例選択基準を、高脂血症の関与がより大きいと考えられる、アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞に絞ることにした。東儀分担研究者は、健常成人では、加齢とともに脈波伝播速度(pulse wave velocity, PWV)が増加して動脈壁の硬化が認められ、さらに血管内皮系マーカーが加齢の影響を受けやすいことを示した。なお、血清脂質は、加齢、PWV、血液マーカーとの相関を認めなかった。内山分担研究者は本研究で用いる脳梗塞の病型分類を検討した結果 、TOAST(Trial of ORG 10172 in Acute Stroke)分類では病因別 にすべての脳梗塞が論理的に分類されるようになっており、本臨床研究のような学術研究には最もふさわしいと考えた。ただし、TOAST分類の病型の名称は一般 的ではないため、三大病型に関してはNINDS-III(National Institute of Neurological Disorders and Stroke-III)による脳梗塞の分類であるアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞を採用するのが妥当であると考えた。森研究協力者は、本臨床試験における高次脳機能検査の評価の方法として、臨床診断基準としてDSM-III-R(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-III-R)の痴呆の診断基準、痴呆の重症度分類としてClinical Dementia Rating (CDR)、認知機能スケールとしてMini-Mental State Examination (MMSE)かAlzheimer Disease Assessment Scale (ADAS)を併用するのが適切と考えた。中村研究協力者は研究協力施設における脂質検査値の正確性と再現性の確保のために、脂質検査の標準化の手順を確定した。すなわち、わが国で唯一の国際脂質標準化のネットワークに参加する基準分析室である大阪府立健康科学センターが、世界に通 用するレベルでの脂質検査の標準化を担当し、本研究班における脂質解析の支援を行うことにした。研究組織は、国際標準を踏まえた組織編成とするために、データセンター、データモニタリング委員会、イベント評価委員会を独立して設置した。本臨床研究は、研究協力施設として全国の約120施設を選定し、1施設あたり30症例の症例登録を予定した。そこで、脳卒中診療の主要拠点施設のなかから約200施設を選出し、本臨床研究への参加の要請を行い、現時点で90施設から参加の応諾が得られている。福島、永井研究協力者はデータセンターの構築を行なった。本臨床試験は症例登録やデータ入力の効率化と正確性を確保する目的で、インターネットを活用することとした。そのために、症例登録や割り付け、入力データの管理や統計解析、臨床試験の進捗状況の管理、双方向の連絡などを行うための大規模臨床試験実施システムの作成を行なった。野村、小林研究協力者らはサブスタディとして予備調査研究の試験プロトコールを以下のように確定した。横断的研究として、虚血性脳卒中発症時における総コレステロール値、スタチンの使用の有無などの調査を行う。縦断的研究として、さらに2年間の追跡調査を行い、脳卒中の再発と総コレステロール値あるいはスタチンの使用の有無などの関係を検討する。そのために、予備調査研究に必要なデータベースソフトの作成を行なった。また、目標症例を600症例とし、30施設の研究協力施設の選定を完了した。さらに、サブスタディとして、中村研究協力者、北川分担研究者は心血管合併症の予測因子としての高感度CRP検査のプロトコールを作成し、その標準化の手順を確定した。矢坂、長束研究協力者らは頚動脈超音波検査を用いた頚動脈硬化の評価方法とその標準化の手順を確定した。矢坂研究協力者は、頚動脈超音波検査による内中膜複合体の測定において、専用のソフトウエアーを利用した際の再現性は極めて良好であることを示した。万波研究協力者は、都市部一般 住民を対象とした大規模疫学調査を実施し、頚部超音波検査を用いて評価した頚動脈硬化指標と年齢をはじめ血圧、喫煙習慣、血清コレステロール値、HDLコレステロールとの間に強い関連性があることを示した。



 この1年間の詳細な検討の結果、プロトコールの策定、研究組織の編成、研究協力施設の選定を完了でき、試験開始の準備が整った意義は大きいと思われる。次年度は、各研究協力施設における倫理委員会の承認を得た後に、予備調査研究を実施するとともに、臨床試験を本格的に開始する予定である。
「脳血管疾患の再発に対する高脂血症治療薬HMG-CoA還元酵素阻害薬の予防効果に関する研究」
広島大学大学院 脳神経内科学
主任研究者:松本昌泰